東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)190号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
原告は、本願発明と引用例一記載のものとの相違点に対する審決の判断は誤りである旨主張するので、以下右主張の当否について検討する。
1 本願発明が、硬化性樹脂で含浸され、かつ流体に不透過性の膜で囲繞された可撓性の樹脂吸収材質より成る管(複合積層管)を、ガス及び液体、又は液体を用いて、反転させ裏返しつつ管路(通路)内を前進させて挿入するに際し、硬化性樹脂を含浸して重くなつている、いまだ裏返しされていない複合積層管を管路内に単に推進させるだけでは底面に沈み、摩擦が大となつて管路内を前進させることが困難となるため、右問題点を解決すべく、流体として必ず液体を使用することにより複合積層管を液体中に浮遊した状態で支持するようにしたことを特徴とするものであることは、当事者間に争いがない。
2 引用例二に審決認定の技術事項、すなわち管体内部に可撓性の樹脂チユーブをライニングするに際し、管体内に可撓性の樹脂チユーブを挿入するのに、管体の一端に可撓性の樹脂チユーブの一端を固定し、可撓性の樹脂チユーブを平坦な形態で管体に沿い、流体の差圧で押しこみ、可撓性の樹脂チユーブを裏返し、拡大させ、管体の内壁に密着させつつ前進させる手段をとることが記載されていることは当事者間に争いがなく、更に詳しくは、成立に争いのない甲第四号証によれば、引用例二記載の発明は、導管(審決がいう管体)の内側に粘着性の流体を塗布し、この塗布面に樹脂のライナ(オレフインの固体重合体、ナイロン、ポリ塩化ビニル等の不浸透性の腐蝕抵抗性のある樹脂チユーブ)を固定する方法に関するものであり(引用例二第一欄第五六行ないし第五九行、第四欄第四一行ないし第四五行)、引用例二には、添付図面第三図に関連して、「第三図には、接着剤が塗布された導管内に折畳み式樹脂チユーブ16を配置する方法が示されている。粘着性の接着剤の塗布層13を備えた導管10は、該導管にボルトで固定されたフランジ18のような適切な接続部材によつて取り付けられたプレナム室17を持つている。導管19がプレナム室17へ圧縮空気のような推進用流体を供給する。柔軟なゴム製の縁取り部材22を有するスリツト21が、樹脂チユーブの供給ロール23からの平らな形にされたプラスチツク配管16を受け入れる。符号16aで示される樹脂チユーブ16の端部は、フランジ接続部によつて導管10に固定することができるし、又はそのチユーブ自体を短い距離だけ折り返してその折り返し部分を導管10の端部で接着剤塗布層にしつかりと接着することもできる。樹脂チユーブ16の端部16aが、このようにして導管10に固定されると、導管19を経由して加圧状態で導入された流体が、そのチユーブにそれ自体の向きを変えて裏返しとなることを継続させ、同時に導管10の接着剤塗布壁と接触させながらチユーブを膨脹させる。」(第二欄第五一行ないし第七〇行。別紙図面(三)FIG.3参照)と記載されていることが認められる。
右認定のとおり、引用例二には、導管内に樹脂チユーブを挿入するに当たり、圧縮空気のような推進用流体の圧入により反転させ裏返しつつ前進させる方法が記載されているから、本願発明における複合積層管を流体により反転させ裏返しつつ通路内を前進させて押入すること自体は、引用例二の記載により当業者が容易に想到し得ることであると認めるのが相当である。
3 ところで、引用例二には、推進用流体として具体的な液体名の記載も推進用流体に液体が含まれる旨の記載もなく、また、導管内に向つて進行する、いまだ裏返しされていない樹脂チユーブの部分を推進用流体の中に浮遊状態で支持する旨の記載がないことは当事者間に争いがない。
原告は、右の点に関し、流体としては液体と気体としかないこと及び引用例三記載の技術事項を援用して、差圧を与える流体として液体を用いることは適宜なし得ることであるとした審決の認定、判断、及び本願発明の(c)の要件は差圧を与えるのに液体を用いることによつて必然的にもたらされるものにすぎないとした審決の認定、判断はいずれも誤りである旨主張するので、この点について検討する。
成立に争いのない甲第五号証によれば、引用例三記載の発明は、裏返して使用する必要のある可撓性筒状体、例えば製作上の都合によつて常態における筒状体の内外周面を逆にして製作されるような可撓性筒状体を容易に裏返して常態にすることのできる方法及び装置の提供を目的とするものであり(引用例三第一頁左欄第一四行ないし第一八行)、その特許請求の範囲は、「可撓性筒状体の一方の開口端周縁部を、本体の筒状壁と重なる方向へ折り返した位置で固定的に支持しておいてその折り返された筒状壁と本体の筒状壁とが重なる部分の内側を導入圧力流体によつて加圧することにより、前記折り返し位置を筒状体の全長にわたつて漸進的に移動させながら筒状体を裏返すことを特徴とする可撓性筒状体の裏返し方法」であること(同第一頁右欄第二六行ないし第三三行)、そして、引用例三の発明の詳細な説明には、裏返ししようとする可撓性筒状体aを巻枠の心棒5に巻き付けて密閉式容器1に入れ、右筒状体の一方の開口端周縁部a´を密閉式容器1に設けた導出筒口3に折り返して固定し、密閉式容器1に圧力水又は圧縮空気等の圧力流体を導入して、筒状体aを漸進的に裏返ししてから密閉式容器1から導出させる方法が具体的に記載されていること(同第一頁左欄第二七行ないし右欄第二一行。別紙図面(四)参照)、が認められる。
右認定のとおり、引用例三記載の発明は、単に製作上の都合によつて常態における筒状体の内外周面を逆にして製作されるような可撓性筒状体、すなわち裏返しにして始めて常態となるような可撓性筒状体の裏返し方法に関するものであつて、引用例二記載のものとは、流体により可撓性のチユーブを裏返すという点では一致するものの、目的及びその他の構成を異にするものであつて、技術的に引用例二記載のものとは掛け離れたものであること、前掲甲第五号証によれば、引用例三にはパイプライン等の導管に可撓性筒状体を挿入する場合にも同引用例記載の方法を適用し得ることを示唆する記載はないこと、引用例二には、樹脂チユーブを反転させ裏返しつつ前進させるために「圧縮空気のような推進用流体を供給する」と記載されていることからも明らかなとおり、引用例二記載の方法は、取扱いが厄介な液体をわざわざ使用しなくても、反転させ裏返しつつ前進させることが可能な樹脂チユーブを対象とするものであつて、推進用流体として液体を用いることを予定しているとは考えられないことを総合すると、流体が気体及び液体を総称するものであり、引用例三には可撓性のチユーブを裏返すに当たり、差圧を与えるのに水を用いることが記載されているからといつて、引用例二記載のものにおいて差圧を与える流体として液体を用い、本願発明の構成を得ることが適宜なし得ることであるとは認め難い。
そして、前記のとおり、引用例二記載の方法は液体を用いなくても裏返しつつ前進させることが可能な樹脂チユーブを対象とし、しかも、引用例二には導管内に向つて進行する、いまだ裏返しされていない樹脂チユーブの部分を推進用流体の中に浮遊状態で支持する旨の記載がなく、そのような技術的思想もないのに対し、本願発明は、硬化性樹脂を含浸して重くなつているために管路内の底面を引きずり、摩擦が大となつて管路内を前進させることが困難となるような、いまだ裏返しされていない複合積層管を、流体として必ず液体を使用することにより、液体中に浮遊した状態で支持するようにして右不都合を解消したものであるから、本願発明の右作用効果は引用例二記載の方法では奏し得ない格別顕著なものというべきである。
なお、本願発明における(c)の要件は、差圧を与えるのに液体を用いることによつて必然的にもたらされるものであるとしても、前記のとおり、差圧を与えるのに液体を用いること自体が適宜なし得ることとは認められないから、右(C)の要件も引用例二及び引用例三記載のものから必然的に想到し得るものでないことは明らかである。
以上のとおりであるから、本願発明と引用例一記載のものとの相違点に対する審決の認定、判断は誤つているものというべきであつて、審決は違法として取消しを免れない。
三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
硬化性合成樹脂で含浸され、かつ流体に不透過性の膜で囲繞された可撓性の樹脂吸収材質より成る管を使用して一つの通路の内側に剛性内張り管を形成する方法において、
(A) 該可撓性管及び膜を平坦にした帯状の形態で供給するに際し該管及び膜の一端を適宜固定し、
(B) 該管及び膜を平坦な帯状のまま前記通路の内部へ通路に沿い、ガス及び液体、又は液体により生ぜしめられる液体圧差により押しこむことにより、該管及び膜が通路内で裏返しにされつつ前進せしめられるようになし、
(C) かくして管状に裏返しにされた部分の内部で、更に通路内に向つて進行するいまだ裏返しにならない平坦な帯状の管及び膜を液体中に浮遊しうるごとく支持し、次いで
(D) 該裏返しにされた管状部分が前記流体圧により通路内壁に対して押しつけられつつある間に、前記硬化性樹脂を通路壁と同形になるように硬化させる、
ことを特徴とする前記通路内に剛性内張り管を形成する方法。
(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
<省略>
別紙図面(二)(省略)
別紙図面(三)
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<省略>
別紙図面(四)
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